2012年6月15日金曜日

中国:不動産ブームのあとはどうなるのか

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JBPress 2012.06.12(火) 姫田 小夏
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35407

黄金期が終わった中国の不動産市場
もう価格は二度と上昇しないのか

中国の不動産バブル崩壊が間もないと叫ばれている。

 今のところは、急激な落ち込みを示す様子はない。
 実体を超えた不動産価格は、現在、微増微減を繰り返しており、表向きには「重篤」と言える症状には至っていない。
 しかし、中国の某証券会社の幹部はこう言う。
 「中国の不動産価格は二度と上昇しないだろう」――。
 彼は、
 バブル崩壊の直撃以上に恐ろしい現象が起きようとしている

ことをほのめかすのだ。

■「ついにあの老人が物件を手放した」

 「スペイン風の一戸建て2500万元を1800万元で」
 「3000万元の一戸建てが2200万元に。676平方メートル」
 「500万元引き! 閔行区の豪華一戸建てが1050万元で」

 筆者の携帯電話には、毎日のように不動産仲介会社からショートメッセージが送られてくる。
 豪華一戸建ての値引き合戦である。
 25~30%引きが多いが、中には40%引きに近いものもあり、この機に売り抜けようとする所有者の焦りがありありと伝わってくる。

 最近、上海の投資家たちの間で、ある富豪がついに手持ちの不動産物件を売り払ったことが話題になった。
 「上海の不動産価格は絶対に下落しない」
と、その富豪は強気一点張りだったが、ついに物件を売却したというのだ。
 「絶対売らないと言っていたあの老人がとうとう手放した」
ことに投資家らは不動産神話の崩壊を予感し、気色ばむ。

 強気論者だったのはこの老人だけに限らない。
 中国の不動産はまだまだ行けると多くの人が信じていた。
 中国政府が、土地の購入を限定する政策を打ち出し、市場が活気を失ってからも、
 「それでもいつかは好転するだろう」
と様子見を続けてきた。
 これまで、
 「不動産価格が上昇した直後は調整策が入り、市場は踊り場に転じる
というのがお決まりのパターンだったからだ。
 「いつかまた上がるはず」
 と市場の回復に期待を寄せる者や、
 「政府がこんな状況を放っておくはずはない」
と政策の転換を待つ者もいるなど、少し前までは楽観ムードが支配的だった。
 だが、上海の空気はここに来て悲観ムードに転じつつある。

 別の専門家は
 「思えば2010年7月が最後の値上がりだった
と振り返る。
 中国には「回光返照」という言葉がある。
 臨終を迎える直前に病状が突然よくなる状況を言うのだが、
 「まさに2010年7月は『回光返照』だった」
というのだ。

 さらに、この専門家はある試算を基にこう警戒する。
 「2013年下半期に、上海の不動産は本格的に落ち込むだろう

■約90%に達した持ち家率

 西南財経大学と中国人民銀行が共同でまとめた「中国家庭金融調査報告」というリポートがある。
 このリポートによると、中国の持ち家率はすでに89.7%に達している。
 都市部では85.4%
 農村部では92.6%だという。
 都市部における世帯当たりの住宅所有は1.22戸
 すでに1戸目を取得している世帯は7割近くに上る。

 この89.7%という持ち家率は、世界平均の63%を大幅に超えている。
 ちなみにアメリカは63%日本は60%だ。

 20年前まで中国には「不動産」という言葉がなく、概念すらおぼろげだった。
 だが、1990年代から市場が形成され、早々と不動産を手にした者は巨万の富を手に入れた。
 そして一般市民も、我も我もと不動産所有に飛びつき、2000年代に入ると持ち家率は先進国のレベルを超えてしまった。
 逆に言えば、今、持ち家を本当に必要としている人口は10%程度しかいない、ということになる。

 ある中国人エコノミストはこう語る。
 「今後、不動産購入者の予備軍となるのは、この残り10%程度の人口だ。
 都市部で言えば、農村からの流入人口か、未婚の若者たち
 しかし彼らは早晩、相続が発生し、『持ち家あり』という状況になる。
 こうした市場で、今後、不動産業が発展するのは難しい」

 他方、広州、北京、深セン、上海の持ち家率はそれぞれ72.8%、70.7%、70.0%、67.9%と他の内陸の都市と比べてまだ低い状況にある。
 とはいえ、中国でこれから大きく不動産業が復活し、再び経済を牽引するかと言えば、その可能性は薄い。
 前出のエコノミストも
 「不動産の価格も今後上がる余地はない」
とコメントする。

■5戸の所有者となる「一人っ子」

 筆者は6月上旬、上海で外資企業に勤務するXさん(33歳)を訪問した。
 この夏、結婚式を挙げる予定のXさんはすでに親元を離れ、賃貸アパートで婚約者と同居生活を始めている。
 中国では一般的に、新郎が住宅を購入して初めて「まともな結婚ができる」と認識されており、「賃貸アパートが新居」というのは、あまりいい印象を持たれてこなかった。
 しかし、不動産価格の高騰で、こうした社会通念は非現実的なものとなった。

 Xさんは、賃貸アパートに住むのはもう1つ理由があると明かす。
 「妻の父と母はそれぞれの名義で住宅を所有している。
 僕の父も所有している。
 いずれ僕たちはそれを相続することになるから、あわてて買う必要はないと思っているんです」

 中国のある報告書には、
 「2030年には85%の中国人が5戸以上の不動産を持つ
という推測がある。
 一人っ子が親からの相続で何戸も家を所有するという現象が生まれるのだ。
 例えば、祖父母が購入した住宅2戸、両親が購入した住宅2戸を、孫に相続させれば、孫は自分の購入分を合わせて合計5戸の所有者となる。
 ちなみに中国には日本のような相続税、贈与税がない。

 問題は5つの持ち家をどのように利用するかだ。
 「今日はあの家、明日はこの家」というように、所有物件をわたり歩くのか。
 それとも、残りの10%程度に相当する「持たざる人」に貸し与えるのか。
 しかし、貸そうとしたところで、市場はすでに供給過剰という状態にある。

■止まらない高齢化と産業構造の変化

 さらに社会構造の変化、産業構造の変化という問題が立ちはだかる。

 中国の高齢化のスピードはすさまじい。
 1953年、中国の高齢者人口(60歳以上)は4500万人で、14歳以下の児童人口の5分の1を占めるに過ぎなかった。
 だが、2010年には1億7800万人となり、子どもの人口の5分の4にまで増加した。
 2020年には、高齢者人口は2億3900万人に達し、人口の16.7%を占めるようになると予測されている。

 少子高齢化は日本だけの問題ではない。
 中国でも、少子高齢化が様々な社会問題を引き起こす「日本病」への罹患(りかん)が恐れられている。
 人口構成が大きく変化すると同時に、産業構造もまた大きく変化しようとしている。
 人件費が安価な大量の労働力が支えてきたビジネスモデルが崩壊しつつあるのだ。
 今後、大量の工場用地が無用の長物となり、「土地あまり」の状態になる可能性だってある。

 日本の高度経済成長期と同様に、中国でも不動産は永遠に価値を保つと誰もが信じて疑わなかった。
 しかし近い将来において、不動産は
 「仮に価値があったとしても市場がない事態となる」(現地誌)。

 不動産投資の黄金時代。
 それは再び到来するどころか、中国の歴史上の過去の出来事として遠くかすんでいこうとしている。





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